ひとつだけ

あんたにはわからないよ一生な

「ねえ、今突然一人ぼっちで砂漠に置いてきぼりにされるのと、一生ずっと片思いしか出来ないの、どっちがまし」

きみが太陽の方から問いかける。ここはぼくらの中学校の屋上。

「なんで突然そんな2択?どっちも嫌だなあ」

ぼくは屋上の手すりにひじをかけ、ぐいーっと背中を反らす。

「片思いってそんなにいや?」

「片思いは……つらいだろう。最近それすら縁遠いけどね」

 

きみは少し不服そうに、手すりに片手をかけたままこちらをにらんでいる。ぼくはきみのほうを見てないけどわかる。きみがどんなふうにしているかは。

 

 

「砂漠ってどんなところかしらね。どのくらいほこりっぽいんだろう」

きみが突然話を変える。これもいつもの事だ。

「体育大会のグラウンドみたいなのは勘弁だなあ。1時間いて髪がゴワゴワになるんだ。鼻をかんだら真っ黒だし」

 

「やだ。きたない」

きみがくすくす笑う。高い声がいくらでも青い空に吸い込まれていく。

 

ほこりが舞う。

 

「わたしは片思いって、結構いいと思うけど」

きみがくるっと姿勢を反転させながらすこし大きな声で言う。スカートが遅れてついていく。風をはらんで、向こうの青が透けて見える。

 

「マゾなんだね」

きみが突然怒った顔で早歩きにこちらへ向かってきた。

「そうじゃなくて。両思いより、可能性があるでしょ。両思いになったら、もう可能性はないんだよ。だってあとは別れがあるだけだから」

どうしてそんなに怒っている。

「可能性がないってことはないだろう。そのまま結婚するとかさ」

 

「結婚したって、離婚するか死別するかだわ」

きみは遠くをみている。角膜と青のあいだの涙でできたスクリーン。

「どうしてそんな悲しいこと言うの?」

「ほんとのことじゃない」

ぼくは言葉もない。

「だとしたってさあ」

 

考えて、やっとの思いで喋り出した。

「ーー外国で、抱き合ったまま白骨化した遺体が上がったというニュースを見たことがある」

つづける

「それってどうなるのかな。永遠に両思いと言えるのか」

きみはこたえない

「話、聞いてる?」

「聞いてない!」

また怒っていた。

 

 

「世界一高い場所ってどこ?」

キリマンジャロのことかな。きっと違う。この年の頃の女の子はみんなこうだ。

「さっきからなんなの?その問いは」

「お前、このままみんなのところに戻らないつもりしてるんだろ」

「もう行くよ。そろそろうちのクラスの合唱の練習が始まる」

ぼくもさすがに腹が立ってきた。立て続けに言い放って校内につながるドアへ向かう

 

 

「愛ってどこに落ちてると思う?」

ふりかえる。

「あそこかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

きみが見えなくなった。屋上の手すりには、君がいつの間にか外した臙脂色のリボンタイが括られて空へ伸びている。

 

あまりの眩しさに明順応を起こしたようだ。

 

 

 

 

せんせい、せんせい、と呼ぶ声に

やっと意識を取り戻した。